ブログとは別に日々の仕事の中で付き合った職人のあれこれを気ままに書いていきたい。
不定期になるので思いついたら書くことにする。
先ず一発目は一番付き合いが多く、当社の出来を左右しやすい大工だ。家を建てると現場に一番長くいるのが大工だ。刻みから始まって完成までとなると4ヶ月程になる。当社の売りである手刻みや真壁は大工の腕に左右される。次に材料と言ったところだ。
当社は息子が棟梁をしている。普段いる大工の中で一番若い。秋田の宮大工のところで修業した。角館に7年程いて帰ってきた。
とりあえず当社の仕事をしていた大工のところに預けた。作業場を作った時から息子が墨付けをして棟梁になった。
立場が逆転して親方は息子に使われることになった。アドバイザー兼任と言うところだ。
大工は家大工と宮大工に分かれる。修業も別で道具から仕事のペースまで何もかも違う。
宮大工はできたもので判断され家大工は早くできることに重点を置く。だから宮大工は仕事が丁寧で遅い。材料に対するワガママも強く複雑な仕口とかやりたがる。
家大工は一現場いくらで請負うから早くないと赤字になる。
後存知のように家はプレカット全盛で早さが絶対的な価値を持つ。建材も早さを追求しているからなおスピードアップする。
それに対応した大工が中心の家大工は技術より体力だ。宮大工は腕と知識がモノを言う。
主力が今でも60代が多い大工の中にはそう言ったスピードを好まないのもいる。大工は腕だと信じているのも僅かだがいる。
大工は基本的に日当制で交通費も道具代も自分持ちである。
最近は会社組織に雇われてサラリーマンが増えた。保険などをかけてもらっているので自由にあちこち移れない。
もちろん仕事も選べないので一匹狼を好むのもいる。腕に自信がある者程そう言う傾向がある。
大工は数えきれなほど付き合ってきた。
選ぶ基準は腕を一番重視する。持っている道具を見るとある程度わかる。カンナとかノミとかプレカットでは無用の長物だ。
当社の現場では昼休みに一斉に大工がノミを研ぐ。若い大工には研ぐ修業をしたことがないのも増えた。
プレカットだと組み立てるだけなので自分で作ることがない。
手刻みは仕口はもちろん材の使い方まで大工が考える。たとえ設計者であっても細かく指示することはない。
真壁の仕上げだと材の良し悪しや太さは重要だ。私は選んだ材木を見て仕口まで口を挟んでいる。知識がないのに口を挟めば喧嘩になるか無視される。
逆にこちらの指示にも関わらずレベルを超えた仕事をすることもある。
一般に職人は設計者とか施主の知識レベルを超えた技術を持っている。プレカットでは役に立たずとも手刻みでは有用だ。
完成後ではわからなくても手間をかけて狂ったりしないような仕事をする。かけ過ぎにならないように設計者としては注意しながら現場を見る必要がある。
近頃ではかけ過ぎどころかちゃんとやれないのが増えて苦労する。
私と同年代が多い大工だが引退間近が大勢いる。あと2,3年で大工不足は確実に来る。
在来工法の手間のかかる現場はやれなくなることも予想される。
大手の住宅会社は自前の大工養成機関を持っている。地場の住宅会社などは競争に勝てなくなる。
元請けをできなくなった工務店は下請け専門になる。当社も大工を増やすことは難しいと思っている。
大手は上棟式とか省略するが職人たちは迷信深いのが多い。
不幸ごとがあれば縁起を担いで一月ほど休むとか現場管理に支障を来す。逆柱とか現場にはやってはいけない決まりがある。
施主が気にしなくても大工は嫌がる。当社では廃れる決まり事も分かる範囲内でやるようにしている。
ベテラン大工が知っていることでも息子が知らないこともある。いずれやらなくなることは仕方がないことではある。
そう遠くない将来に手刻みとか真壁は消滅することになる。神社仏閣でもプレカットが主流になる時代が来る。
そういう時代でも大工は必要だし技術もある程度残る。TVなどで伝統の技とかノスタルジーを込めて話題になる。しかし成り手が減って教える方もいなくなったら技術は廃れる。
一般庶民には手の出ない数奇屋とか超高級住宅のみになってしまう。当社は普通の住宅を近場の木で建てたいと思っている。限界に挑戦するようにできるまで続けたい。