世の移り変わりは激しい。20代から40年見てきて職人の世界も変わった。一番は数が減ったとこだろう。手作りとか手刻みが減って建材による工業化が進んだ。
伝統的な家作りは減ってなくなるのは間違いない。技の継承も廃れる運命にある。マスコミ的には珍しいのを見るように取り上げられることもある。
都市部では匠の技を残すためには高価格の現場を狙う戦略が増えてきた。数奇屋や超高級店舗などを手がける。宮大工の世界もプレカット化は進むから残る分野は少ない。
現場では腕のある大工も電動しか使えない大工も一緒に働く。特に手間賃の差はない。技術の価値が低いと言うことだ。30年も前から気付いて鑿鉋を捨てた大工がいた。
スピード第一でプレカットも建材もいち早く取り入れるやり方に切り替えた。老舗工務店の跡取りだが腕の達者なベテランを首にして素人を採用する。
肝心の彼からして大工修行なしでサラリーマンから後を継いだ。自分ができないものは社員にも要求しない。
私が独立する前だったが一緒の現場をやったことがあった。現場監督の経験のない私でも出来の悪さは一目瞭然だった。
打つべきところに釘を打たない、ホゾが短く効いていない、ボルトの締め付けを忘れる…..。
当時親会社は地域で一番の建材会社だった。建材とともに大工も紹介されていたので変えることはできなかった。案の定施主との間でトラブルになり親会社まで巻き込んで騒動になった。
大学卒で元営業の工務店の社長は施主との間の話をうまくつけた。利益を削る結果になって早く工事したことは何の意味もなくなった。
プレカットの現場を見ていると彼のやり方が正しくてこだわる私がおかしく思える。スピード第一で端折る隠すは普通になった。見える部分しか評価されない家作りだ。
後で狂わないように差したり嵌め込んだり栓を打つとかは見えない仕事だ。完成後では見えない部分にこそ凝るのが大工というモノだ。
目新しさや目立つ部分しか評価されない現状は30年も前に彼が気付いたことだった。しかし時代の流れは彼の予想よりも早かった。
アフターやクレームに振り回されるようになる。そして若い大工が次々と独立して彼の仕事を奪う。技術レベルの低さは習得の早さも意味する。
親の残した立派な作業場はアパートに建て替えた。食品や化粧品の販売に主力を移して事実上の廃業になった。
時代の流れについて行くのは大変なことだと思う。客や取引先だけでなく不動産から機械まで引き継いでも生かせない。ましてや前向きに信念を貫き通すのはもっと難しい。彼から学ぶことはなかったが今になってわかったこともある。