山から木を出して家を建てると元請けの大工の能力が大きい。山出しから刻みなどの設計まで中心となって進める。建築士のいなかった昔はかなり進んだ技術と知識のある設計士だったに違いない。
棟梁と呼ばれるこれらの大工は受け継がれた知識と経験で家を設計していた。図板と呼ばれる板に材木の寸法から仕口の種類や位置などを書き込む。他の大工が見てもわかるように記号を使って描いていく。
図板は右上が北に来るように書くのが一般的でX軸方向左横にいろはにと柱位置ごとに振っていく。Y軸方向は下に漢数字で一二と振っていく。それを一階床、二階床、桁廻り、母屋と作る。省略して2枚の場合もある。
間取りを決めるには施主と打ち合わせしながら山の木をどこに使うかなど決めていく。昔の間取りは定型化されていたので独自のデザインとかは少ない。あるとしたら細かい仕上げの部分で差別化する。梁を大黒に貫通させたら鼻栓を出すとかそう言う部分は大工のセンスだろう。
構造も今だったら計算によるが昔の大工は経験や知識で作っていく。個々人の自由よりは昔からある経験が最優先だったに違いない。それを補強する技術の開発は大工個人の資質による部分が大きかった。ヨーロッパの古い建物や集落はこうやって作られた。
古い古民家の解体で建てた大工のこだわりの程がよくわかる。強度を上げるための仕口や栓は複雑になっていく。他の大工よりは少しでもいいものをと言う熱意が複雑にしていく。今でいうデザインのようなものだろう。
大工が全て仕切った頃と今の家つくりはだいぶ違っている。設備関係が増えて構造は箱のような機能だけを要求されるようになった。プレカットが増えて少なくとも木造住宅では素人でもできるようになった。間取りさえ決まれば構造計算はプレカット業者がやる。
大工が現場職人になってデザインと設備関係が設計士の仕事になった。設計事務所は行政に出す確認申請に沿った設計図面を描く業者になった。インテリアコーディネーターやデザイン専門の仕事も増えている。
設計士の重要な仕事に現場管理がある。設計図面通りに施行されているかをチェックする。行政に代わり検査するのだからそれなりに厳しい。ただチェックと言っても金物とか全行程のほんの一部に過ぎない。
100年住宅とか長持ちする住宅も話題になったことがある。基準法や規則で定める耐久性は建てた直後の強度を目処にしている。木材の経年変化や金物だけに頼る強度は長期の耐久性に心配がある。基準法は今でも未完成部分を変えながら現状に合わせた法律になっている。
基準法は何百年とか長期に渡る技術の積み重ねはない。昔の棟梁は何代にも渡って受け継がれてきた技術と知識で建ててきた。細かい亀裂が入っても倒れない構造と揺れないことを基本とする法ではどちらが有利かわからない。
少なくとも現状の家つくりでは構造はプレカット業者がデザインや行政の申請は設計士がやっている。木材も集成材が主流で建材と同じような経年変化を考えている。構造は後で交換ができないものだから問題はある。
住宅会社はデザインと独自の金物による強度をウリにして営業する。あくまで建材で作るやり方で無垢材や在来の仕口などのやり方とは違う。経年変化は気密性を高め密閉することで対応する。本当に耐久性があるのかまだ証明すらされていない。
設計士はこう言う建材だけで家を建てるやり方しかできないところが多い。見える部分のデザインが最優先される現状はますますその傾向が強くなる。古い在来の構造や金物仕口などが理解できない設計士も多い。
地元の木を使って昔からの大工の技術を活用した長持ちする家を建てる設計士は少ない。設計しても作る大工がいなければ絵に描いた餅になる。設計士は昔で言えば棟梁の代わりであるから全て指示できないとならない。設計士と大工はあくまでセットなのであってどちらが欠けても良い建物はできない。