設計士と言う言葉は正式にはない。建築士が正しくて基準法で定める正式名称だ。あえてここでは設計をする職人と言う意味で書く。ご存知のように建築士は一級、二級、木造と三種類あって試験を受けて取得する。
役所への申請や管理業務には必要だ。設計が出来るから建築士なのではない。どちらかと言うと法規上の可、不可を判定するのが主目的なのだ。行政は違法建築物を取り締まる際に建築士を関与させてそれを代行させる。
主目的が遵法であるから間違い探しが仕事になる。施主の側から見れば法に触れないものはどんなのがあるかと言うことだ。設計業務を施主の希望を叶える点で言えば満点ではない。基準法という枠が嵌められるからだ。
昔からの伝統構法の建物は現在建てられないものもある。藁葺き屋根とか石場建てと呼ばれる束石の上に建てるのはできない。地場産業活性化による規制緩和とか層間変形角による構造計算などと難しい問題をクリアしないといけない。
設計は家を建てるためには必要なことであるから設計士は要ることになる。法規上の名称は建築士であっても設計の一部だと考えられる。設計士は施主の意向を汲んで要望を叶えるのが仕事だ。たとえ建築士でなくとも経験のある大工は設計士だと言える。
木造建築物はすべて在来の構法で建築可能だ。防火や耐震性をクリアできれば大工でも設計できることだ。行政に申請する際には建築士の資格が必要なので有資格者が有利だ。基本的に違法建築物は不可能なので最初から理解できるのは早い。
木造住宅も在来構法とツーバイフォーなど枠組み構法、金物による構法などがある。昔気質の大工にできるのは在来構法だが金物とか追加されて耐震性の検査に対応する。軸組による構法ではピン構造なので仕口や水平の揺れを防ぐ筋違とかが重要になる。
神社仏閣などは筋違はなく貫と呼ばれる材木で対処する。筋違よりは抵抗力が小さいので揺れを止めるのではなく減らして仕口などの強度と一緒に抵抗する。基準法では抵抗力の数字が重要なので沢山入れることになる。仕口の強度は基本的に合算はされないから確認申請には注意が必要だ。
職人不足に対応するためプレカットが普及した。住宅設計のあり方も変化して分かれる傾向がある。デザイン、設備関係と構造設計の二種で設計事務所はデザイン優先が増えた。住宅では構造計算も簡単で仕口とか事実上考慮することもない。
デザイナーを志す設計士は刻み以前の工程を知らない。木を出して製材乾燥し木拾いをして刻む、この工程を踏むことはない。ますます建材多用で規格化された家を表面的な仕上げ等でデザインする建て方になった。
素材の持つ質感とか曲がりなどの自然の魅力は無視される。工業製品であるから素材や仕上げにこだわろうとしても規格以外にできない。こうした家つくりが本当の設計と言えるのか疑問がある。地元の木を使った家つくり以外に実現できる方法がない。
単に表面に板を貼ったり従来のベニア製の床材から無垢に変えても本物とは言えない。柱や梁材の持つ魅力や漆喰の壁の真壁つくりは構造から別物である。プレカットは二次元的な平面の間取りだけで設計できる。無垢材の真壁つくりは材の選定から仕口加工に至るまですべて設計する。
素材自体が仕上げであるから木の知識は必要条件で在庫まであれば理想だろう。曲がりや大黒柱、梁は同じ樹種、寸法でも見た目が違う。選べるのは設計上も有意義なことだ。そう言う設計では在庫だけでなく製材所やきこりの協力が必要になる。すべて条件をクリアする材料を揃えるのは一社では難しい。
当社で山出しにこだわり続けるのはそうした各種業者との連携を大事にしているからだ。山の崩壊が懸念される今山の木を出すことが最重要なのだ。ただそれを設計できる業者が減ってしまった。あり余った植林された木は伐採を待っている。活用されるのが減り続けるのは大変残念なことだ。