青森県八戸市の一級建築事務所 建築組 パックス有限会社

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職人の世界—–吊るし切り

廃れる運命にある職人は数多い。その中でも伐採職人の吊るし切りは特別だ。
そもそも伐採職人は激務と事故率の多さで減る傾向だ。あまり脚光を浴びる事もなく地味な仕事である。最近山仕事が映画化されたりちょっとだけ見直されている。

最初に吊るし切り職人の事を聞いたのはもう10年前になる。やってきたのは60代と思われる背の小さい職人。
仕事にかかるとスルスルとまるで猿のように木に登っていく。身のこなしは見かけとは全く違う。

家の周りに木を植えるのは田舎では普通の習慣だ。家が建ち始めると倒せなくなる。
崖崩れ防止に植えたので大木になると倒れる危険が増す。大風の夜は隣に倒れたりする心配で眠れぬ夜になる。伐採を相談されて欅の大木欲しさに請け負ったこともある。CIMG3605

製材所や伐採職人と相談の上で吊るし切りを呼ぶ事になった。特殊技術と危険手当もあって手間賃が3倍。
しかもスケジュールも詰まっているので向こうの言いなりになる。クレーン車とグラップルを用意して決行日になる。

まずはロープを担いでクレーンのフックに掴まりながらあっという間に木に登る。上に着いたらロープを木に引っ掛け今度は自力で降りてくる。
次は根元をチェンソーで伐る。伐りながらクレーンで持ち上げゆっくり倒す。CIMG3633

一本倒すのに30分ほどかかる。普通に倒せるのは吊るさないから本数は少ない。
欅など枝が多い木は登って行くのに自力になる。どんな大木でもクレーンは15トンくらいは吊れるので登りさえすれば倒せる。杉など長さがあれば降ろしても倒せないので途中から玉切りをして伐る。

伐採の世界は冬仕事になる。夏は農業というのがいて約束を守ると言う概念が薄い。何たって農作業優先でアルバイト的な感覚がある。
しかし今では一年中伐るし職人も専門化されて掛け持ちも減った。若い伐採職人は森林組合などに多くサラリーマン化した。CIMG3595

夏伐りは水分が多く乾燥にも時間がかかり価格も安くなる。伐ったらそのまま寝かせて葉枯しと言うやり方も多い。時間と手間が二度現場に行く事になって高くつく。
寒伐りは職人も農閑期で乾燥にも都合が良い。山の寒さは街中より2,3度低くて隠れる所もなく強烈だ。立ち会でしばらく立っていると長靴の底が凍ってくっついてしまう。

写真の吊るし切りは二度目の住宅街の伐採だった。10年経ったら息子に代替わりしていた。
親子なので直伝で一人で来るところも変わらない。年齢は40代後半と言うところか。その時の木は樹齢5,60年の杉とサワラで小さい方だろう。もちろん木は私が全量買い取った。CIMG3637

学校など公共施設や住宅街でも5,60年を越した木は簡単に倒せない。吊るし切り以外に方法がない。需要は増えていると思うが職人が増えたと言うのは訊いたことがない。
高所作業車を使うとか足場を組むとか金がかかる方向に向かっている。労災の面から問題視されることもあるからいずれいなくなる可能性が高い。


職人の世界—–塗装屋

内外部を塗装する通称ペンキ屋。新しくて古いのが塗装。
京都の方では壁はベンガラとか柿渋で仕上げる。荏油とか桐油など昔は防水も兼ねて油を塗った。壁には柿渋が一番有名だが無色透明のニスとかラッカーが増えた。
硬くて綺麗に仕上がるのがウレタン塗装だ。シンナーを使うと乾燥が早い。水性も増えて学校関係とか指定されるが乾きが遅いのが欠点だ。
最近は輸入品のリボスとかオスモが人気だが亜麻仁油とかひまわり油を使っているがイソパラフィンも少量含まれる。実際使用してみると塗りたては化学製品の匂いが少しする。すぐ消えるが全くしない米ぬか油とか蝋に比べると工業製品だと感じさせる。

米ぬかにしても蜜蝋ににしてもウレタンとかニスよりも値段は高い。材料費も塗り工賃も違うのでこだわれば高いものになる。
オスモやリボスにしても米ぬかでも自分で塗ることは簡単だ。素材によって難易があってマダラになり易いのと粘度があって塗りにくいのがある。
自然塗料は一般に木の表面に染み込むタイプが多くウレタンとかニスは膜を作る。仕上がりの違いは歩いたり触った時にサラッとするかヌルッとするかだ。
特に杉などの無垢のフローリングは歩行感が一番なので自然塗料の方が向いている。耐久性が少し低いので後で塗り直すことも考慮しないとならない。20090802_1327878

ラッカーやウレタンしか塗ったことがない塗装屋もたまにいる。無垢でないフローリングや真壁でない家は内部塗装があまりない。
自然塗料を使う家はこだわった家つくりで一般的でないので塗り方すら知らないのもいる。塗装工事は昔内部が真壁の時にラッカーなどを塗っていた。
外部も無塗装のサイディングに吹き付け塗装するのが多かった。今は内部仕事はコーキングだけで外壁も塗装品が増えてコーキングのみが多い。住宅の仕事は激減してただのコーキング屋になってしまった。

塗装屋の職人は修行もあまりなく2,3年で簡単な仕事はできる。コテを使った仕上げやリシン仕上げなど吹き付けも減ってしまった。
スピードが命の住宅会社は1日でできるコーキングだけの仕上げを選ぶ。そうなると余計素人に近いものでもできるようになり競争になる。
リフォームブームに乗って屋根とか外壁の塗装を直接請負が増えた。塗装屋は2,3人規模が多く大型物件になると協業して仲間と組む。ビルの塗装とかになると10人くらい集めないと終わらない。こだわった塗装など縁がないいわゆるペンキ屋がほとんどだ。DSC_1036

似ても似つかない仕事が漆仕上げだ。塗るというより擦り込む感じに近い。ごく一部のマニアックな方でないとやらない。
値段はもちろん工事も埃が大敵なのでガッチリとシートで覆い何日もかけて仕上げる。その間は誰も現場には入れない。家具塗装としてはよく見かけるが工事現場では滅多にない。
展示場は下駄箱カウンターとキッチンを漆にした。耐久性も耐水性も日焼けも素晴らしいがとんでもない金額になるのは間違いない。


職人の世界—–屋根屋

上から読んでも下から読んでも屋根屋。住宅では板金屋と瓦屋がある。
暑さ寒さから逃げようがない屋根の上で危険なものあって後継者不足の際たる業種。特に板金屋はどこでも60代が多くて一番若いのが社長という業種。社長は息子だから若い。
住宅の仕事より大型物件の屋根工事が稼ぎの主力。土方と並び雨には弱い職業で昔から休みが多い。
瓦屋は当地では一軒しかない。雪国は瓦屋根は負担が大きく雪止めも雨樋も取り付けが難しい。高級住宅が多いので仕事も少なく広範囲に現場がある。100_3217

板金は昔からあって鉄板の移り変わりで菱葺きとかヒラ葺き、立てヒラ、瓦棒、横葺きなどある。現在主力は立てヒラ、瓦棒、横葺きでガルバリウム鋼板がほとんど。
当社の展示場は銅板の一文字葺きになっている。耐久性は瓦よりあり軽いので神社仏閣でも予算が許せば使われる。
銅板は価格が変動制で見積しないとわからない。数奇屋とか超高級住宅でないと使われない。緑青が吹くまでは10年はかかるがそれからが強いと言われる。

瓦屋は北国では絶滅寸前で皆廃業してしまった。東京帰りの最後発が一軒だけやっている。
仕事が少なく仙台とか遠くまで現場がある。最近は住宅会社などが外観の差別化でカラフルな洋風瓦が増えた。
和風の三洲の燻瓦の激減で先々後継者不足もあって厳しい。燻瓦はモルタルで棟をつくったり技術がいるが洋風は難しくない。
燻瓦の現場は大型住宅が多いので瓦屋が来る現場は当社も力が入ったものになる。瓦屋根は棟が一番かかるので寄棟とか入母屋は相当な金額になる。CIMG0620


職人の世界—–電気屋

電気工事業者で、現場での通称は電気屋。
現代の生活の豊かさは水と電気だろう。給排水と並んで生活になくてなならないものだ。電気工事業者自体は昔からあるが工場とか電柱工事が専門だった。
住宅専門の工事業者が登場したのはまだ古くはない。職人も別で違う業種と言っても良いくらいだ。
給排水と似て県に登録後電力会社に工事の申請をする。電力会社の意向は絶対で全て沿う形で工事する。建物と外部の電柱工事は別で一緒にできる業者はない。DSC_0624

現場に出入りする職人のなかでも若いのが多い職種だ。高卒後4,5年で一人前になってその後の移り変わりも激しい。日給月給で基本は日当で計算して保険等を引いて給料になる。
技術も施工法もどんどん進歩するしIT化もあって若物には向いている。それもあって5,60代のベテランが少ない。逆に電柱などの重電関係はベテランが多い。
水道屋と同じで自社の特徴を出すのが難しく競争も激しい。太陽光とか新しい分野が出た時に対応が分かれて差が出てくる。

業者を変えると他社のアフターはやりたがらないのであまり変えないようにしている。物件の詳しい図面を残しているので施工した業者がアフターには有利だ。
大工や左官建具と違って見積も正確で業者間の差もあまりない。コンピューター化も一番進んでいるし職人らしさと一番遠い感じがする。高所作業車や車以外に大きな機械も要らない。泥臭い仕事も少なく後継者不足からは縁がない。CIMG3288


職人の世界—–基礎屋

家を建てると最初に来るのは基礎屋になる。その前に地盤調査をやるから正確には一番ではない。工事をすると言う意味では最初だ。
設計をしていると現場へ何度も行くことになる。隣近所との挨拶とかとにかく周りが気になる頃だ。
基礎工事は地面を掘ってコンクリートを流す仕事だ。重機とかトラックが頻繁に出入りし騒音や埃を出す。
近隣が最初に工事に関心を持つきっかけになる。管理者としては最初に注意を払うことになる。

基礎屋は元左官屋が一番多い。左官の仕事がビルなどの床や壁の仕上げが主になった。コンクリートを流したり撫でるのは同じだ。
バックフォーとダンプトラックを用意すれば基礎もできる。少し違うのはスコップを持つことで左官は練る時に少しやるだけだ。
地面に穴をほり鉄筋を組んで型枠をつける。型枠は鋼製型枠が主流で型枠大工でなくともできる。鉄筋も工場で溶接された既製品を使う。CIMG2340

パワービルダーが登場して基礎の値段が下がり対応できる業者が減った。規模を大きくして機械化しコストを下げる。
できないところは夫婦とか親子とか少ない人数で住宅専門になった。中小の大工や工務店相手なので間が空いて左官でも何でもこなす。
当社も左官と共通の業者に頼んでいる。基礎が終われば漆喰の工事でまた来る。漆喰は他所だと滅多にないから基礎だけで工事金額が少ない。土木工事や外構なども出来るところが多い。

基礎工事は技術の差があまりない。こちらの指示通り真面目にやってくれるのが一番だ。
鉄筋径からピッチ、重ね全て図面に書いてあるのでその通りに施工する。途中で配筋検査もあるので業者の手抜きもあまりない。
あるとすれば配筋の設計が不味いことになる。基礎関係でトラブルがあるとすれば土留めとか外構部分が多い。
コンクリートの収縮割れとかで揉めることが多い。外断熱になって基礎も外側に断熱材を張って仕上げる。断熱材が柔らかいので上塗りのモルタルに亀裂やヒビが入りやすい。CIMG3451

コンクリートを打つ時には強度とスランプを確認する。
天気、気温によって決めていく。真冬でも防凍材を入れたりして工事はできる。時間計画の難しさと価格が上がる。
普通は1,2月は避けて最低気温が0度以下になる時は養生をして練炭などを入れる。流してから4日くらいは置いてから型枠を剥がす。
断熱材を張って天端をモルタル仕上げをする。天端はレベラーと呼ばれる柔らかいモルタルを流すこともある。生コンを流す前にアンカー位置を確認して固定する。

文字通り縁の下の力持ちなので基礎工事の段階では施主も見ても面白くない。すぐ上棟があってそちらが花形で準備もあるから余計だ。
基礎工事は地味で丁寧で綺麗に出来ると良しとされる。できあがったものが評価されることも少なくトラブルの時だけ呼び出される。
基礎工事の良し悪しは工事自体にあるのではなく事前の調査と設計で決まる。地盤調査の結果とそれに対応した配筋や施工法が重要だ。