青森県八戸市の一級建築事務所 建築組 パックス有限会社

090-1060-9764

廃れる運命にある職人は数多い。その中でも伐採職人の吊るし切りは特別だ。
そもそも伐採職人は激務と事故率の多さで減る傾向だ。あまり脚光を浴びる事もなく地味な仕事である。最近山仕事が映画化されたりちょっとだけ見直されている。

最初に吊るし切り職人の事を聞いたのはもう10年前になる。やってきたのは60代と思われる背の小さい職人。
仕事にかかるとスルスルとまるで猿のように木に登っていく。身のこなしは見かけとは全く違う。

家の周りに木を植えるのは田舎では普通の習慣だ。家が建ち始めると倒せなくなる。
崖崩れ防止に植えたので大木になると倒れる危険が増す。大風の夜は隣に倒れたりする心配で眠れぬ夜になる。伐採を相談されて欅の大木欲しさに請け負ったこともある。CIMG3605

製材所や伐採職人と相談の上で吊るし切りを呼ぶ事になった。特殊技術と危険手当もあって手間賃が3倍。
しかもスケジュールも詰まっているので向こうの言いなりになる。クレーン車とグラップルを用意して決行日になる。

まずはロープを担いでクレーンのフックに掴まりながらあっという間に木に登る。上に着いたらロープを木に引っ掛け今度は自力で降りてくる。
次は根元をチェンソーで伐る。伐りながらクレーンで持ち上げゆっくり倒す。CIMG3633

一本倒すのに30分ほどかかる。普通に倒せるのは吊るさないから本数は少ない。
欅など枝が多い木は登って行くのに自力になる。どんな大木でもクレーンは15トンくらいは吊れるので登りさえすれば倒せる。杉など長さがあれば降ろしても倒せないので途中から玉切りをして伐る。

伐採の世界は冬仕事になる。夏は農業というのがいて約束を守ると言う概念が薄い。何たって農作業優先でアルバイト的な感覚がある。
しかし今では一年中伐るし職人も専門化されて掛け持ちも減った。若い伐採職人は森林組合などに多くサラリーマン化した。CIMG3595

夏伐りは水分が多く乾燥にも時間がかかり価格も安くなる。伐ったらそのまま寝かせて葉枯しと言うやり方も多い。時間と手間が二度現場に行く事になって高くつく。
寒伐りは職人も農閑期で乾燥にも都合が良い。山の寒さは街中より2,3度低くて隠れる所もなく強烈だ。立ち会でしばらく立っていると長靴の底が凍ってくっついてしまう。

写真の吊るし切りは二度目の住宅街の伐採だった。10年経ったら息子に代替わりしていた。
親子なので直伝で一人で来るところも変わらない。年齢は40代後半と言うところか。その時の木は樹齢5,60年の杉とサワラで小さい方だろう。もちろん木は私が全量買い取った。CIMG3637

学校など公共施設や住宅街でも5,60年を越した木は簡単に倒せない。吊るし切り以外に方法がない。需要は増えていると思うが職人が増えたと言うのは訊いたことがない。
高所作業車を使うとか足場を組むとか金がかかる方向に向かっている。労災の面から問題視されることもあるからいずれいなくなる可能性が高い。