長く仕事を続けると素人である施主が何を望むか少しずつわかって来る。流行り廃りも大きいし家のイメージは年々変わる。テレビのCMの影響はビジュアルのデザインという要素を強くした。一部を切り取って都合の悪い部分をデフォルメして流すのが普通だ。CMだから仕方がないが一瞬の印象だけを強く受ける。
施主がどう言うのを望んで家を建てるかをすぐキャッチ出来るのは才能だ。普通は暖かく明るい家が一番人気で好まれる。断熱はとにかく明るい家すなわち窓の大きな家はいつまでも人気がある。断熱はメーカーや建材店などが必死で売り込むから年々進化している。予算さえ許せば最高のものを手に入れるのは簡単だ。
明るい家はイメージとして捉えがちで断熱のように数字化しにくい。照明器具などと昼の明るさがあるが日中の陽がサンサンと入るイメージが多い。建築基準法では床面積の1/7の開口面積が必要だ。面積よりも位置が重要で大きく差が出る。
窓から逃げる熱損失は壁などよりも3倍も大きい。大きな開口は明るく魅力的だが熱損失が大きく暑く寒い。暑さ対策には直射日光を遮ったり大きな開口で換気出来る方が有効だ。エアコンにだけ頼ると開口を高性能にしても少しも省エネにならない。
何回も家を設計して住んでからの施主の意見も聞くことが多い。設計時に狙った効果が上がらず逆に予想しなかった効果が上がることもある。換気とか明るさは家の向きや隣地により大きく影響を受ける。風の流れを予測しないと窓を開けても空気が流れない。
天窓は明るさという点では優れている。しかも隣地の影響も受けにくいい。同じ面積なら3倍明るく囲まれた部屋などでは有効だ。欠点は屋根に設置する場合は結露しやすく掃除も面倒だ。
日本のサッシの断熱性能は世界的には劣っている。中国や韓国の基準より日本の方が低い。欧米はもちろんもっと厳しいが家のデザインに自由度がなく種類も少なく安い。
省エネ基準は平成20年から厳しい基準が義務化される。トリプルガラス入りは標準になる。価格的に高くなるので小さくしたり引き違いなどが減ってくるだろう。引き違いサッシは開口面積を大きく明るくできるが省エネには不利だ。
住宅会社や工務店などは省エネ基準をクリアするために開口を小さく高性能にする傾向がある。コストも下がるが換気や明るさには無理がある。しかも外部デザイン最優先で一般的に開口は小さい。建ててから暗い家が多くしかも隣地から影を考慮しないのもある。
省エネ性能ばかり謳って住んでからの換気不足でエアコンフル回転の家になりやすい。それにビニールクロスと建材多用では健康にも悪い家になる。価格競争もあって見学会では日中の暗さは照明で誤魔化し換気も最低の基準クリアで済ます。
当社のように古民家とか和風っぽいデザインは開口が大きなりがちだ。南面だけを大きく他を小さくして数字的にはクリアできても換気通風ができない。敷地の風方向を調査し開口の配置を考えないとならない。日の入らない窓はトルプルなど高性能化し小さくする。明るさもあって数を増やす必要が出てくる。
ヨーロッパでは屋根とか外壁に規制がかけられるところが多い。そのために古き良き時代の風景が残されている。しかしその場合でも省エネの基準はしっかりと守らなくてはならない。一番逃げる開口が小さく高性能になっている。
規制のおかげで外部デザインは不可能だからその分コストが下がる。しかも街並みの統一感があり石やコンクリート造りなので長寿命で窓のコスト分は十分ペイする。日本では自由すぎるデザインが街並みの不統一とコスト高を招いている。