設計事務所で長く続いているところはたくさんある。住宅専門となると意外に多くはない。官公庁とか大型物件専門のいわゆる大手のところは長く続く。経営者が変わっても会社としての価値が高いと言うことだろう。
当社も27年経つが後継者もいないので設計事務所は閉じることもありうる。工務店としては息子がいるので続くかもしれない。息子は建築士ではないので設計事務所を継ぐ可能性はない。
長くやって思うのは自営業は潰れないのが一番だと言うことだ。あまりに簡単な言い方になるが実感として思うことだ。同じ頃創業した仲間も随分いた。親から継いだものも含め半分いやそれ以上が潰れた。
仕事はいつも平均して来る訳ではない。サラリーマンとの大きな違いがここにある。良い時と悪い時の差をどうやって埋めるのか。答えは簡単だ、必死になって新しい手を考えてクリアする。これしか言いようがない。
勝ち残り組の言い分は優雅なものだ。自分に才能があったとか親が莫大な遺産を残したとか….何を言っても通用する。潰れたものはあちこちに迷惑をかけ家族をどん底に突き落とす。
私だけの経験だが4,5年毎にピンチは来るようだ。支払いに困り生活費にも事欠く。どうやってクリアしたかは余り思い出したくない。とにかく考え付く限りの手や借金で乗り切る。
この期間は企業の発展から見れば一種の停滞期間になっている。人間は危機に陥った時にこそ真剣に次の展開を探る。どこが間違ったかどうやれば再生できるかなどだ。奇妙なことにこの時に発展のポイントになることが起きる。
事務所を建てる、建築士資格を取得する、展示場を建てる。このままではダメだと危機感を持たないと行動しない。思い切った行動ができるのもこう言う時だ。
長く続けるにはそれなりに存在理由がある。支持する客がいてこそ企業は成り立つ。翻って当社の場合はどこが支持されたのかだ。一番は木にこだわったことだろう。時代の流れの真っ只中ではなく平行して違う分野を開拓したことだろう。
国産材を使った本格的な木の家、漆喰仕上げや真壁の少し古い家をイメージした。断熱や各種機能の発達で木の家から離れていく傾向がある。そこに少し疑問を感じ抵抗した。次の展開も見えない中で資格取得や展示場建設は相当な冒険だった。
今でも木の家は一定の支持があるが業界の流れは機能や設備の方向に向かっている。大手の戦略はこれしかないのだが職人の手仕事と言う観点からは相当かけ離れている。逆に言うと地元の職人たちに危機が迫っている。
消費税上げやオリンピックで景気は上がり下がりがあると思う。長期的には都市部の繁栄と地方の衰退から家作りに関わる職人が減っていく。出稼ぎもできない引退間近組が徐々に減るからだ。大手の限りなく工場生産品で作る家が市場を圧倒しそうだ。
その中で当社の生き残る道は手作りの木の家しかないと思う。山から出したり製材品とか困難は予想される。仮に最後の一つになっても可能性を探っていきたい。そのためのノウハウも職人たちとの連携もまだまだ捨てられない。