地元材だけで家を建てるには必ずしも丸太から買わなくてもできる。材木店とか製材所などで乾燥した県産材をまだ買えた。それどころかそれを使ったプレカットもやっていた。
なぜ山出しにこだわるかと言えば設計の自由度が違うからだ。プレカットは規格型の住宅会社のような建物に向いている。特寸の太い梁とか大黒柱を使うような家は得意ではない。わざわざ大工を使って手刻みするから高くなる。
プレカットが安いと言っても自由な設計が不可能なら意味がない。設計のポリシーを曲げてまでプレカットは使わない。施主のために本当にこだわった良い家を作るには山出ししかない。
長く続けることでコスト回収も軌道に乗りノウハウも出来てくる。国産材プレカットに頼らなくとも十分にコストで対抗できる。苦労して軌道に乗る頃には製材所は潰れ加工屋が廃業伐採は森林組合だけと山を取り巻く環境はすっかり変わってしまった。
コストが下がってさらに下げるには数の確保だった。住宅会社のような営業マンもいないし広告費だって限られている。セッセと広告はしたのだが思うような数も集まらないし実物の見学を希望される方が増えた。
引き渡し後の住宅は写真で見て頂くよりないが何と言っても実物の迫力には敵わない。事務所の前のトンネル工事が終了し貸していた土地が返却される。一気に広大な駐車場ができて何かに使えないだろうかと思案していた。
平成21年になって国産材普及のためにモデル住宅の建設の補助金事業が始まった。地域材を使った展示住宅を建てると国の補助金がもらえると言うものだった。自己資金で展示場を建てることも考えていたので否も応もなく選定事業者の県に応募した。
書類と図面を揃えて建築住宅課に申し込み15社が選ばれた。他の事業者は展示住宅と言うより県産材を使った建売の認識が強く展示期間の3年を経過後すぐ売却している。もちろん当社は主旨の通り今に至るまで展示場になっている。
当初より自己資金で考えていたので補助金をもらえるのは助かった。それでも補助金をアテにして当初計画より仕様を上げたので金額が膨らんだ。結局自己資金だけとそう違わない借り入れができてしまった。
夢にまで見た展示場宅の建設が秋から始まった。大黒柱はケヤキの40センチ角曲がり梁はサイカチ、ケヤキ、赤松を用意した。フローリングも天井板も板から加工し塗装は油を自分で塗った。長期優良住宅の仕様が義務付けられていたので断熱や耐震も最新の仕様だ。
当時長期優良住宅は仕様としては最新最高のレベルだった。それをクリアしながら広い空間と曲がり大黒のある古民家風の住宅を目指した。内部仕切りも建具で外せるようにしてミニコンサートやギャラリーとして使えるように考えた。
私のイメージは子供の頃見た藁葺き屋根の大きな家での宴会だった。広い土間から田の字型の座敷を建具を外して大勢集まって飲み食いをした。そんな古民家のホールのような使い方のできる家は少なくなった。構造的にも耐震性の厳しい基準をクリアするため見えないところに補強を随分入れた。
最近ワンルーム型式の使い方が増えて1階は一つの空間にする方がいる。そうしたイメージの中には家の中でそれぞれ自由な暮らしを考えている。完全に仕切った個室ではなく緩やかな仕切りで気配がわかるようにだと思う。
展示場は最大限な空間の可能性を見せようと思った。実際に住む機能は省いてもどれだけ大きな空間を作れるかだった。建具を外すとすべてワンルームになるホールのような家だった。子供の頃見た建具を外した大宴会の古民家だった。
昔の家は寒くて耐震性が劣ると思われている。そのイメージを覆すような耐震強度のある大空間の家が出来上がった。それまでの個室優先の家つくりの否定から始まった。高性能断熱材の進歩がそれを可能にした。