青森県八戸市の一級建築事務所 建築組 パックス有限会社

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私の同年代は手に職を持つと言うことで大工になるのが多かった。親世代にも多く大工はありふれた職業だった。あれから40年ほどして大工がこれほど減るとは思いもしなかった。
まして自分の息子が大工になりたいと言った時は驚いた。設計という仕事をしながら大工と言う職業で生計を立てることが現実問題として考えられなかった。

プレカット時代で大工も昔風の職人から現場で働く労働者となってしまった。腕一本で食っていくとかは無縁の世界になった。決められた仕事をきっちりやるだけで出来がどうのとかはなくなった。
宮大工の修業を志した息子はそう言う時代の流れから外れているように思った。本人の意思が固くそれから7年自分で見つけた親方のところに行くことになった。CIMG1033

宮大工は家大工(やだいく)と違って技術と言う面で厳しく古いものを残している。大工道具が全く違って種類も多い。最初は鑿、鉋の刃の研ぎから入る。
仕事から帰ってから毎日研ぐ練習を3年はやる。そこができなければ道具の使い方を教えてもらえない。もちろん電動工具も使うのでこちらはすぐ覚える。

細かい加工は兄弟子たちの仕事で刃が研げない者はやらせてもらえない。できるようになる頃には必要な道具を揃えなくてならない。
鑿一つとっても用途、刃幅、長さで10本は用意する。凝るようになれば30本ケース入りの何十万もするのを持っている。CIMG0986

鑿だけでなく鉋や玄能、鋸…..キリなくある。それらを全て自費で揃えるので若い者は道具代しか稼げないと言われる。最近は何でも電動工具の時代なのでそちらの購入費もものすごい。
現場では電動の出番の方が圧倒的に多い。手で加工する部分は少ないのだが道具は持っていないとできない。

電動でできる部分はすぐ出来ても手加工の部分はまず道具の手入れから始まる。切れる刃でないと細かい加工は出来ないからだ。
仕事の前に刃研ぎになりある程度使えばまた研ぐ。こうやって道具は砥石で削られ短くなっていく。焼きが入った部分のギリギリまで使って短くなったモノも大事に使う。CIMG0984

廃業した大工から道具をもらうことがある。使わない道具はすぐ錆びる。埃にまみれて大工以外にはただのゴミにすぎない。
良い道具はそう言う状態からでも研ぐとまた使えるようになる。買った時の封がしてある鉋台は刃を入れてまた使うことができる。

どこかで良い道具を見つけたり売り出しの時とかに買っておく。刃を入れ使いやすいように削ったり叩いたりする。手に馴染むまで時間がかかる。
古い大工道具には大工特有の癖がついていて貰っても一度バラして研いだり作り直す。言わば使い込んだ道具はその大工の魂が宿っている。CIMG0982

一般に職人は自分の仕事を作品と思っているのは少ない。彼らには自分が働いた現場と言う意識しかない。金を貰って働くのはプロであり職人なのだができたモノは施主のモノであり自分の作品とは思っていない。ボランティアであれば作品と言うこともあるがプロである以上金を貰えば仕事にすぎない。

自分の腕には自信を持っているのは一定の数いるものだ。他の大工にできないことをできるのは腕の差としか言いようがない。
そしてその腕を磨くことに情熱を燃やすのもいる。そういう熱心な大工は道具にもこだわる。CIMG0951

大工道具の世界にも名の通った職人がいる。腕の達者な大工たちに支持される道具は同じくらい腕の良い職人が作っている。だから銘の入った鋸や鉋を持つことは腕の良い大工の誇りなのだ。
廃業に際して道具を譲られる大工は技術もまた受け継ぐ。使いこなせないとわかっている者に道具を譲ることはない。

大工道具の値段は想像以上の金額になるものだ。鑿一本2万から良いもので10万くらい。玄能の頭が有名なもので6万、無名で1万くらいか。砥石は良い道具にはつきもので10万するものもある。鑿、鋸、鉋、砥石などは種類が多いので全部揃えるとすごい金額になる。CIMG0954

電動工具でも消耗の激しいものと長く持つものがある。電動ドリルと丸鋸は何年も保たない。電ドルで5,6万丸鋸で3万くらいか。手押し鉋とか電気ドリルなど充電でないタイプは比較的保つ。
充電タイプが主流になり保ちが悪く値段も高くなった。他に道具が要らないのでプレカット大工は何台も用意する。