今まで伐採した現場はいくつになるだろうか。昨年だけで2箇所ほど伐っている。伐るだけで建てなかったのが多い。年中木を買うのであちこち伐る現場はある。在庫との調整もあるので無闇に買うと資金繰りで苦労する。伐り出しすると全部買い取りなので在庫も増える。
伝票を見ると2013年が一番多かった。現場もそれに応じて多く並行して進めていた。伐採の多さと現場の数は関連がある。逆に言うと山から出して建てようとする方が多く来る。それほど伐採と弊社の仕事は関連が深い。経験の数は自分の木で建てるためのノウハウもあると言うことになる。
最初に伐ったのは国産材を使い始めた18年前だった。親戚の工事があって山持ちだったので森林組合の協力で出した。それまではスプルスとか米松の輸入材が多かった。少し前に建てた自分の事務所も外材だった。プレカットはまだ出始めで少なく手刻みだった。それから間もなくプレカットが普及し始め増えていく。最初の山出しで懲りた私は2,3年国産材を敬遠していた。
15年前に古い家の隣に若夫婦の家を建てることになりすぐ近くの山の木を使うことになった。建主の祖父が手入れした山で7,80年くらいの杉があった。孫の新築に使うのであればと快諾を得て伐採した。素材の良さと価格も折り合いがつき利益も出て山から出して建てることに自信が出てきた。伐採職人と搬出、製材と連携も良くトラックも借りて自分のところで乾燥した。
それから毎年のように伐る話が舞い込んで在庫を溜めていった。建てることと無縁の現場もあったが材木の在庫を増やすことに夢中になった。乾燥材をいつでも用意できるようにと倉庫も借りて在庫した。杉だけでなく赤松や欅などの大黒柱や曲がりの材料まで揃えた。
曲がりや大黒はいつでも手に入る訳ではなかった。山全体を別業者が買って一部の欅だけを買うことも多かった。職人や森林組合などから情報を得て買い付ける。森林組合は大掛かりな伐採も多い。中には2,3本欅とか雑木が混じるとチップに売るより高く買う私に電話がきた。在庫は山出しではなく単品買いも多かった。
道路工事にかかり伐ったり住宅の周りの伐採もあった。道路工事は森林組合が受けることが多く規模も大きかった。山の中に道路が通ると銘木と言えるようなものが多く出た。住宅も周りは日当たりが良く年輪が粗くなるのが多くてよほど安いとか太くない限り買わなかった。
唐松だけで家を建てたことがあった。最初に杉の山の予定が相続で揉めて代わりの唐松を伐った。唐松は梁とか構造材として見えない部分に使われる。狂いやすくヤニも強いのでよほどの良材でないと使えない。唐松は成長が早く樹齢が50年を超えると中心から腐り始める。伐った木は50年くらいで何本か腐れがあった。
建主の意向で自分の木を使うことになった。6寸角で構造を組み仕上げもフローリングとか羽目板も作った。建具やキッチンなど家具材まで全て唐松という徹底ぶりだった。これなどは木を見てから設計を進めた例だった。狂ったりするリスクよりも唐松を使うことに意義を求めた訳だ。
経済的なメリットだけでなくこう言うこだわり方ができるのがわかった。材料をふんだんに使えてしかも金額のことは気にしなくても良い。自由にしかも完全にオリジナルの二度と作れない家が完成した。
昔の田舎の家は大工がこうやって建てていただろうと思う。伐採から製材乾燥して建てる昔の大工の調整能力と設計能力がいかに優れていたかと言うことだ。自分の木で建てるやり方を知らなければ昔の大工の凄さを半分もわからなかったと思う。
自分の木で建てる一番の意義は先祖との繋がりや思い入れだろう。次は完全にオリジナルで他では絶対作れないものができることだろう。この二つで自分の木で建てる意義は十分にあると思っている。