青森県八戸市の一級建築事務所 建築組 パックス有限会社

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障害物レース

午前中はお施主様と打ち合わせ。ご夫婦でキッチン、収納など現場で打ち合わせ。外壁の色とか内部建具まで話が及んで細部のデザインの変更などがありそうだ。こちらが意図していることがお施主様には好まれなかったり違和感があることがある。 
 
わたしはできるだけ現場で打ち合わせをするようにしている。高さとか奥行きとか3次元のことは現場に行くに限る。概略の大きさとか自分の思い違いとかよくわかるものだ。豪快なイメージを意図したのに奥様から違和感を指摘されたりする。 
 
こちらはプロだからと押し付けるつもりはない。ないがイメージは持って進めている。設計者なのだから当たり前だ。それが往々にして建て主様と食い違うことがある。何度も経験したプロと素人は違って当たり前だろう。 
 
金をもらってお施主様の夢を実現するのがプロなのだから独りよがりはダメだ。デザインとかイメージが違うと思っても言い分は聞かないとならない。じっくり待って意見を聞いてからこちらの言い分を通す。最終的にできたものの責任はこちらにある。 
 
いくら施主様の言うことだからと言っても何でもハイハイと聞けば良いと言うものではない。仕上がりイメージがどうなるかをしっかり説明しないといけない。その上で希望するなら他の部分でカバーできるものは努力する。 
 
設計は障害物レースのようなものだ。お施主様を障害物だなんて失礼だが。こちらが進もうとする方向がよくズレる。お施主様の言うことだから無視はできない。できないが最終責任はこちらなのだから何とかして進むべき方向に誘導する。 
 
現場が最終局面に入ると仕上がりでいつも揉め事が出てくる。胃が痛くなる毎日が続く。そして考え続けて良い案が出ると舞あがるほど嬉しくなる。そしてもちろん施主様に喜んでもらえればもっと嬉しい。


巾木

雪だったのが午後になると雨に変わる。気温も上がって厳しさも緩む。午前中は事務所で図面、午後からカタログ集めでショールームへ。その後現場へより戻る。大工は内部の床の巾木をつけた。当社はボードを張る前に溝のついた厚板を床に張る。 
 
通常はボードを張ってから上にかぶせるように板を張る。これだと床の不陸(水平でないこと)を拾って隙間ができる。あらかじめ床に上からビス留めすることで不陸をカバーする。同時に高さも11センチもあって既製品の倍はある。こう言ったところで見た目がだいぶ変わってくる。 
 
一階の場合は大きな巾木と二階の胴差に挟まれてキッチリとした仕上げになる。もちろん後で床が波打って隙間が空くなんてことはなくなる。長期的に見れば大きな意味がある。 
 
初めてこのやり方を知った時は大げさに言うと家つくりの概念がひっくり返るようだった。柱を隠してボードを張ってその上から印刷した紙製の巾木をノリでつける。何年かすると床が波打って巾木との隙間ができてくる。暖房をしたり換気をすると隙間風が吹いて寒々とする。 
 
キチンと作られた家は変なところから隙間風が吹くなんてことはない。当社の現場を最初に見た方はどこが違うか良くわからなくてもしっかりした印象を受けると言う。それは巾木とか天井が二階床の裏とか変に隠したりしないからだ。現しの現場はどんな些細なところでもしっかりと作り込まれている。CIMG5841


失敗例

今日は現場や打ち合わせでほぼ一日事務所に戻れなかった。挙句に午後になると携帯の電池切れで音信不通状態。下駄箱のカウンター材のヒバをお施主様が探して来て作業場に運んだ。どうしてもと自ら探して来た。こちらは業者とか製材所を探すのだがヒバ材は割れやすく在庫が少ない。 
 
夕方から現場へ行って色々チェック。大工は軒裏の工事であと少しで終了。息子は外壁のささらを加工中で来週初めにはなんとか外部が終了予定。続けて外壁の塗装になるが今回もシッケンズの予定だ。外部の木部塗装はキシラデコールとシッケンズが多い。  
 
どちらかと言うとキシラデコールは濁り気味でシッケンズの方が木目が出る。外部の木部塗装は透明は保ちが悪い。変色や割れが出てくる。メーカーも着色の塗料を勧めている。過去には知識不足もあって透明を塗ったところもある。今見ると相当劣化が激しくて変色している。 
 
現場をこなすことで覚えることも多い。過去のお施主様には申し訳ないことだが一言念を推しておくべきだった。失敗例ならいくらでもある。建材とかであればメーカーとか建材店からの知識もあるので失敗は少ない。 
 
木の家とか無垢材の世界は先例があったり修行先で覚えるとかしかない。修行もなくいきなり独立は冒険だった。失敗はお施主様に迷惑をかけてしまう。もちろん何度も手直しは経験済みで金額的にも相当な負担になる。そうやって覚えた知識を後継者に伝えることができないのは残念なことだ。 
 
ただ息子が大工と言うのであれば分野は少し違うが伝えることもできる。設計者としてではなく職人として生きていくのだから生きた知識ではない。心構えとか信念のようなものを教えられたら思っている。CIMG5839


キッチン

今日も暖かく昼前から雨が降り始める。外部工事を中止して内部に集中する。大工が法事で一人休んで外部がなかなか進まない。昼前からお施主様と奥様で現場へお見えになりキッチンとかトイレなどを打ち合わせる。この辺は奥様でないと進まない分野だ。 
 
キッチンは洗う場所と火を使うところが平行に分かれている。真ん中を通路にして分けた。製作キッチンなので高さはもちろん奥行きも自由に決められる。枠組みから棚板まで全て杉材で作る。一部Jパネルも使うが基本は杉の無垢材。接いで奥行きをつくり厚みも重ねたりする。 
 
流しメーカーを使う方も多いが無垢のキッチンも根強い人気がある。細部の収納とか金物類が既成のものしか使わないのでそう言う部分はこだわれない。当社に依頼する方の多くは無垢の木にこだわる。たとえキッチンであっても無垢にしたがる。 
 
ご主人もグルメで自ら包丁を握ったりするらしい。包丁刺しとか自分専用の物もある。近年増えた男性のこだわりがキッチンにも及んでいる。奥様に任せきりでなく自ら口を挟む。見た目で言えばメーカーものには敵わない。しかし素材とか自分好みの部分を作れるのがこのやり方の良いところだ。 
 
誰でもこだわる部分はあるもので理屈ではあまり意味がないと思っても自分には大事な部分だ。棚板も無垢にすると言えば簡単そうだが反るのをどうやって防ぐかかなり面倒だ。既成の棚板材なら反るのはもちろん仕上げも簡単だ。 
 
デザインや使い勝手にこだわるのは普通だが一切の工業製品を拒否すると困難が待ち受ける。しゃれた色使いや機能などにほとんどの方が注目する。自分独自の世界ではなく皆と同じと言うのがポイントのようだ。金額は作っても既製品でも機能が同じなら変わらない。変わるのは素材とデザインだろうか。


煙突カバー

気温が上がると体の調子まで良くなる。久しぶりに10度まで上がって雪も溶け春間近と言う感じだ。現場も外部工事が捗りストーブの煙突カバーをつけた。お施主様自ら製作したステンレス製の立派なカバーだ。瓦に雪が積もって取り付けできなかったが今日やっとできた。 
 
カバーがつくと薪ストーブ業者が上部カバーを採寸して製作し煙突工事をする。来週には採寸に来る予定だ。着工後4ヶ月もかかって業者も心配したと思う。催促もきたがこんなに手間取る現場は聞いたことがないだろう。とにかく大工工事が途方もなくかかる現場なのだ。 
 
当初は応援の大工がすぐ見つかる予定で4,5人体制で行く予定だった。しかし短期の応援ばかりでずっといてくれるのが見つからない。やっと一人終わるまでいてくれる人が出てきた。一番最初に応援に来た大工でこう言う現場が好きなのか居ても良いとなった。 
 
大工に限らず職人不足は深刻で概してきつい業種が厳しい。土工とか屋根、水道など全くと言っても良いほど足りない。しかも今いる職人も高年齢になり辞めるのが出て来る。昨日もいつもの板金職人が70歳になったのでやめると。休みながらで良いから働いたらと言ってももう十分だと。
 
大工も似たようなものでいつまでたっても息子が最年少だ。住宅会社の現場へ行けば何人か若いのがいると聞いている。手刻みとか旧式の大工仕事となるとトンといなくなる。修行年数がかかるのが嫌われるのか力仕事が多いからかとにかく少ない。 
 
いずれ手刻みの家は希少価値が出て趣味の家つくりになるかもしれない。建材やプレカットは大工技術のレベルを下げたが同時に若者の参入も促した。大手の住宅会社などは自社の大工養成までやっている。伝統的な家つくりはごく少数の変わり者しか継ぐのがいないからもうすぐ廃れてしまいそうだ。CIMG5834