青森県八戸市の一級建築事務所 建築組 パックス有限会社

090-1060-9764

職人の世界—–きこり

”きこり”を辞典で引くと山で木を伐採する人とある。もう20年以上も付き合いのある伐採職人であるきこり。
農業と兼業が多かったのは昔の話で今は会社に所属するサラリーマンだ。サラリーマンになっても危険なことと山の中にいて仕事をするのは同じだ。伐採だけでなく夏は下草刈りや植林もやる。

最初に職人たちに出会ったのは森林組合に依頼した伐採の時だった。親とも言える恩のある方が組合長で国産材を使うように言われたのが最初だ。
材木として使う以外に木との縁がなかった。山から丸太を出して製材して家を建てるのがマニアの世界だと思っていた頃だ。

施主もまた森林組合員で山持ちなので自分の山から出すことになった。伐採はおろか製材所もよく知らない。おんぶに抱っこで伐採、製材全てお任せでスタートした。見るもの聞くもの知らないことばかりで絵に描いたように大失敗に終わった。DSC_2869

山から出す量が見当がつかず使用量の3倍くらい出た。余りを製材所に売ったが良いものだけを安く抜き取られる。
売れそうもない丸太で製材し未乾燥で狂ってトラブルになり高い授業料を払うことになった。この経験が勉強不足を痛感しのめり込むきっかけになった。

良い丸太とは何か、木を見分けるには、そもそも種類は…..。組合は販売するのが主でこだわりは特にない。仕方がないので伐採現場を見てきこりから直接聞いて勉強した。あちこちの現場へ出没し危ないからと迷惑がられながら覚えていった。

いつも同じメンバーとしか話さない職人たちは熱心に来る私を歓迎した。木の種類から見分け方、年数や生えている山の見分け方….全て覚えた。
同時に職人と仲が良くなりその後の山買いの情報網となった。山の中でも携帯は通じるのできこりから伐っている丸太の情報が直に来る。CIMG3465

それを聞いて丸太を見て購入する。きこりの見立ては確かで良し悪しは外れたことはなかった。
ブローカーや組合の市では良い丸太と悪いのを抱き合わせで売る。そうしないと残るからだが買う方は良い丸太しか興味がない。下に隠して騙し合いみたいなものだ。

丸太は立っているより伐ってからが判断しやすい。それでも製材してからでも当たり外れがある。
山買いだとすべて自分の責任になるから博打に近い。伐採の現場から一部の良いものだけを自分のトラックで運び出して買えば安全に安くなる。

きこりは出た丸太をブローカーや組合に売る。良いものも一緒に買い叩かれるので少しでも高く売りたい。利害が一致して握手になるのだが欲しくない時でも買わざるを得なくなる。大した金額でないと思っても積もれば大きい。山田伐採7

膨大な在庫はこうやって増えて資金繰りにも苦労する。良い材木を集めることで良い大工たちも集まる。腕の良い大工がきこりの次に増えていくことになる。大工たちにも売ったり本業が疎かになってしまう。10年前だったら私のような”木馬鹿”は珍しくなかった。

きこりに限らず職人は信心深いのが多い。きこりも最初に伐った切り株に水、塩、煮干しを並べ酒を撒く。ベテランが減ったところはあまりやらなくなった。労災事故が多い危険な仕事なので山の神を敬うのが多い。

普及したプレカットや高齢化の影響できこりや製材所は次々と廃業した。携帯に残ったきこりの名前も一つ一つ消えていく。
今後も山買いはあるのだが減ることは仕方がない。買っても置く場所やトラックの維持費で苦しくなる。生き残った製材所や組合からこれからも買い続けるつもりではいる。


職人の世界—–大工道具

私の同年代は手に職を持つと言うことで大工になるのが多かった。親世代にも多く大工はありふれた職業だった。あれから40年ほどして大工がこれほど減るとは思いもしなかった。
まして自分の息子が大工になりたいと言った時は驚いた。設計という仕事をしながら大工と言う職業で生計を立てることが現実問題として考えられなかった。

プレカット時代で大工も昔風の職人から現場で働く労働者となってしまった。腕一本で食っていくとかは無縁の世界になった。決められた仕事をきっちりやるだけで出来がどうのとかはなくなった。
宮大工の修業を志した息子はそう言う時代の流れから外れているように思った。本人の意思が固くそれから7年自分で見つけた親方のところに行くことになった。CIMG1033

宮大工は家大工(やだいく)と違って技術と言う面で厳しく古いものを残している。大工道具が全く違って種類も多い。最初は鑿、鉋の刃の研ぎから入る。
仕事から帰ってから毎日研ぐ練習を3年はやる。そこができなければ道具の使い方を教えてもらえない。もちろん電動工具も使うのでこちらはすぐ覚える。

細かい加工は兄弟子たちの仕事で刃が研げない者はやらせてもらえない。できるようになる頃には必要な道具を揃えなくてならない。
鑿一つとっても用途、刃幅、長さで10本は用意する。凝るようになれば30本ケース入りの何十万もするのを持っている。CIMG0986

鑿だけでなく鉋や玄能、鋸…..キリなくある。それらを全て自費で揃えるので若い者は道具代しか稼げないと言われる。最近は何でも電動工具の時代なのでそちらの購入費もものすごい。
現場では電動の出番の方が圧倒的に多い。手で加工する部分は少ないのだが道具は持っていないとできない。

電動でできる部分はすぐ出来ても手加工の部分はまず道具の手入れから始まる。切れる刃でないと細かい加工は出来ないからだ。
仕事の前に刃研ぎになりある程度使えばまた研ぐ。こうやって道具は砥石で削られ短くなっていく。焼きが入った部分のギリギリまで使って短くなったモノも大事に使う。CIMG0984

廃業した大工から道具をもらうことがある。使わない道具はすぐ錆びる。埃にまみれて大工以外にはただのゴミにすぎない。
良い道具はそう言う状態からでも研ぐとまた使えるようになる。買った時の封がしてある鉋台は刃を入れてまた使うことができる。

どこかで良い道具を見つけたり売り出しの時とかに買っておく。刃を入れ使いやすいように削ったり叩いたりする。手に馴染むまで時間がかかる。
古い大工道具には大工特有の癖がついていて貰っても一度バラして研いだり作り直す。言わば使い込んだ道具はその大工の魂が宿っている。CIMG0982

一般に職人は自分の仕事を作品と思っているのは少ない。彼らには自分が働いた現場と言う意識しかない。金を貰って働くのはプロであり職人なのだができたモノは施主のモノであり自分の作品とは思っていない。ボランティアであれば作品と言うこともあるがプロである以上金を貰えば仕事にすぎない。

自分の腕には自信を持っているのは一定の数いるものだ。他の大工にできないことをできるのは腕の差としか言いようがない。
そしてその腕を磨くことに情熱を燃やすのもいる。そういう熱心な大工は道具にもこだわる。CIMG0951

大工道具の世界にも名の通った職人がいる。腕の達者な大工たちに支持される道具は同じくらい腕の良い職人が作っている。だから銘の入った鋸や鉋を持つことは腕の良い大工の誇りなのだ。
廃業に際して道具を譲られる大工は技術もまた受け継ぐ。使いこなせないとわかっている者に道具を譲ることはない。

大工道具の値段は想像以上の金額になるものだ。鑿一本2万から良いもので10万くらい。玄能の頭が有名なもので6万、無名で1万くらいか。砥石は良い道具にはつきもので10万するものもある。鑿、鋸、鉋、砥石などは種類が多いので全部揃えるとすごい金額になる。CIMG0954

電動工具でも消耗の激しいものと長く持つものがある。電動ドリルと丸鋸は何年も保たない。電ドルで5,6万丸鋸で3万くらいか。手押し鉋とか電気ドリルなど充電でないタイプは比較的保つ。
充電タイプが主流になり保ちが悪く値段も高くなった。他に道具が要らないのでプレカット大工は何台も用意する。


職人の世界—–薪ストーブ

薪ストーブである。独立以来取り付けたストーブは10台以上に上る。最初につけたストーブは15年以上になる。東日本大震災では停電中暖房はもちろん煮炊きまで大活躍だった。以来ストーブの取り付けを検討する方が増えた。似たような燃やすタイプのストーブにペレットストーブがある。燃料が手に入りにくく普及しない。

薪ストーブは電気も使わず環境にも優しいというイメージがある。薪を燃やすわけだから二酸化炭素と水を吐き出す。それだけでなく煙の中には匂いや様々排出する。もし全世帯が薪だと環境悪化になるのでヨーロッパでは禁止されている。だから環境に優しいかどうかは疑問もある。DSC_4796

さらに燃料の薪だが良質の広葉樹にこだわれば山から出すのが間に合わない。将来は輸入物の可能性もある。住宅街では匂いがご近所迷惑でトラブルのところもあるので注意が必要だ。郊外で敷地も広く保管スペースや割る場所もあることが条件になる。

純粋に燃料費から見てコスト的に安上がりかどうかだ。薪だけで暖房するとすれば一冬で5,6万円くらいの出費が必要だ。電気や灯油による暖房でも一冬だと同じかそれ以上になる。ただし保管スペースや手間を考えると安あがりな部分もある。CIMG2174

建物の設計にはかなり検討が必要で大きく左右される。高断熱の普及で全館暖房が可能で薪だけでも十分だ。熱の対流や薪の搬入などしっかりと設計することが肝要だ。掃除のしやすさとか焦げたり火の粉が飛んだりするので配慮する。基本的には土間で吹き抜けが一番効率が良い。

確認申請では消防法の規制による検討が必要だ。遮熱壁を設けたりすることも多い。遮熱壁を設けると内装制限はなくなる。大きな部屋でもない限り内壁から一定距離取れない場合は遮熱壁を設ける。床は制限はないが汚れや火の粉対策で大きめに必要だ。DSC_3483

薪ストーブはストーブ本体よりも煙突が重要で値段も高くなる。断熱材入りの二重煙突を使えばタールが垂れたりススが詰まったりしにくい。燃えも良くなるので最低必要条件だろう。自分で購入取り付けもできるが専門の業者に頼むのがベストだ。メンテナンスと煙突掃除もやってもらえる。

ストーブ本体は輸入物の鋳物ストーブが主流だ。伝統もあって作りがしっかりしているのとノウハウが違う。国産もあるがノウハウも少なく大きなメーカーもない。安い中国製も出回っているが煙突も含め自分で設置なので住宅用としては使えない。CIMG0023

煙突も二重煙突は輸入物が主流で性能も良い。ストーブ本体から真上に屋根に出す方法と壁からだして外を立ち上げるのがある。基本は真っ直ぐに立ち上げるのが良い。屋根から出す場合は防水が重要で出し方がある。

煙によるトラブルは今後気をつけなければならなことだ。風向きによってはお隣に匂いがいく。燃やす薪にもよるが完全に乾燥していないと特に臭い。煙突を高くつけたり十分な対策をとる。煙だけでなく薪を積む際に虫がついて問題になることもある。CIMG2012

薪を自分で割ったり木を用意すれば安く上がる。割る場所と保管場所が必要でチェンソーを使う場合は騒音に気をつける。運ぶのにトラックを用意できれば完璧だ。薪置き場はあったほうが良いが屋根だけでも十分だ。

薪ストーブの輻射熱はエアコンなど違い体に優しい。ゆっくりと一日つけて暖房すると快適だ。クッキングをやったりお湯を沸かしたり活用次第で使い道は色々有る。インテリアとして見ても自然素材住宅には向いている。100_3953


職人の世界—–三和土

三和土と書いてたたきと読む。土、石灰、苦汁を入れるからだという説もある。調合されたセット物も売っているし自分でも作れる。
混ぜる土の色が仕上がりの色になる。黒土とか砂でも可能と言われるが当社はやった事がない。着色が可能で黒くする時は粉炭を混ぜる。

京都の聚楽土を使った土間用土のセットが販売されている。こちらは現場でそのまま水を混ぜ固めるだけで良い。他にも全国で色々販売されている。
地元産だったらゴロダと呼ばれる粘土タイプの土と苦汁、石灰、粉炭を混ぜて叩く道具で叩いて仕上げる。粉炭は黒くするためで黄土色で良ければ入れない。CIMG0907

昔の農家は内土間があって黒い土の土間だった。藁葺きの家は日が入らず夏は涼しい。土間がヒンヤリと湿っぽかったような気がする。日が当たる部分だけは乾燥して割れたり埃になった。
今は暖房も効いているしコンクリートの上に施工するからすぐ乾く。ガッチリと固まるタイプでないと実用的でない。既製品のセット物は固まるタイプが多い。

住宅としての機能が一番重視される中で土土間や土壁は問題が多い仕上だ。乾燥しすぎて割れるし断熱も施工が難しい。そう言う欠点があってもなおこだわるのであればそのまま受け入れるしかない。
土壁もほとんど断熱を入れるスペースがない。床の土は逆にただのコンクリートより歩行感に優れる。
ただし今はコンクリートの上に10センチくらいの厚さで仕上げるからあまり効果は期待できないかもしれない。CIMG0908

壁の仕上もボードの上に土を塗ってさらに漆喰で仕上げるやり方もある。竹小舞をやらないで簡易にラスボードの上に塗る。
土は藁を混ぜて外に寝かせて発酵させ作っていた。発酵させるとヌルッとなって塗りやすくなる。藁はそのまま繋ぎの役目で割れにくくしている。
真壁で本格的な古民家風には似合う仕上だ。仕上はほとんど漆喰で塗り厚もあるので吸湿、吸臭効果はあった。

吸湿、吸臭効果は土間にもあったかもしれない。ただ外部から靴を通して色々持ち込まれるので分かりにくかったと思う。
固まってしまえば多少の水を撒いても大丈夫で強く削ったりすると穴が開く。ネットで知識としてはなく現場で施工を通して効果や硬さ、施工の簡易さなどがわかる。
施工法など現場での知識があるので満足のいく仕上ができる。左官屋も土蔵の土壁とか三和土の経験が豊富な業者である。100_3285


職人の世界—–加工機械

手刻みとか手作りというイメージにはノミ、カンナだけで建てるイメージがある。
大工が手押しカンナでやるのは大昔のことだ。カンナ盤と呼ばれる電動の機械が登場して4,50年になる。
製材された材木は乾燥の間に曲がったり捻れたりする。直角に決められた寸法に揃えないとならない。押しながら削る万能木工機を昔の大工はほとんど持っている。中古で30万新品だと7,80万くらいか。

押さなくても自動で削れるタイプには直角二面と上下二面の自動カンナ盤がある。先に直角を決めて平行を通して使う。
二つないと不便で平行は板とか厚さを決める時にも使える。厚さはデジタルになっているので簡単にしかも細かく加工できる。厚さを揃えたい時とか現しでは加工する機会が多い。直角は自動送りにしないで手押しで加工したりする。DSC_4934

ネットなどでも新品の値段は出ていない。メーカーや機械屋と交渉になるが何百万単位になる。
手刻みの衰退で機械を手放したいところが多く中古市場も活発だ。処分しようにも鋳物製が多く相当高く付くからだ。中古と言ってもピンキリで百万くらいから上は外車が買えるほどになる。

中古の中には40年物とかが出たりする。本体は壊れないのでモーターさえしっかりしていると刃物は消耗品なので保つのだ。
メンテナンスが重要で刃とかベルト類など消耗品がかかる。カンナ盤は荒仕上げなのだが刃が切れないと余計凸凹になる。新しい刃物にすると手カンナがいらないくらいだ。DSC_4933

設置で大事なのは削った鋸屑の処理だ。性能が良いカンナ盤は猛烈に鋸屑を吐き出す。
一々集めたりしていては大変なことになる。ダクトパイプで集めてサイロのようなところに貯める。家一軒ともなると2トンダンプに満載で4,5台にはなる。パイプで機械とサイロを接続して送風機で送る。

意外とかかるのがサイロだ。鉄製で下から口を開けて落とすタイプが多い。当社のは下にモータが付いていてトラックに送ることができる。
最初からサイロがあって使わないでいた。それが使えることも設置を考えた一因になっている。新たに作るとなると何百万もかかるだろう。DSC_4946

他にも作業場には機械がゴロゴロしている。刻みの時に仕口を作るホゾ取り機、割ったするバンドソー、超仕上げカンナ盤、卓上ボール盤…..キリがない。
それらを少しずつ揃えて加工を早くできるようにする。機械にかけるか大工に手間賃を払うかだからいずれ揃えることになる。

機械なしで手刻みをやろうとしても人件費が増えるだけだ。しかし機械は維持費もかかるし何と言っても稼働率だ。使うほどにコストが下がるという事だ。
手刻みが減ってきたら宝の持ち腐れになるし借り入れも返せない。今後大工が減る事を考慮しても機械にコストをかけるのは止むを得ない。CIMG2289