青森県八戸市の一級建築事務所 建築組 パックス有限会社

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職人の世界—–材木

木の家と言ったら欠かせないのが材木だ。
その元となるのが丸太、さらに木を伐るのが林業になる。冬に伐るので稲刈りが済んだらとよく言われる。
当社は山主から直接山の木を買って伐採している。杉と赤松、唐松が主でたまに雑木を呼ばれる広葉樹がある。
森林組合などの丸太入札で買うと良いのだけ選んで買える。直買いだと出たものはすべて買い取りなので良いのが出れば儲かる。
前払になるので製材した材木を買う方が資金的には楽だ。

山を買うとまず伐採職人を呼ぶ。重機操作が一人にチェンソーで3人ほどのチームになる。
今はグラップルで掴みながらゆっくり倒していく。残った一人は決められた寸法に玉伐りしていく。
出す量が少ないとグラップルで丸太を集めて専用トラックで運ぶ。大掛りになるとフォワーダとか運搬機械を使ったりする。伐採職人が伐って運送業社は製材所に搬入する。DSC_2859

山で出す時に重要なのは倒した木をどのように玉伐りするかだ。使いたい材木のイメージによって寸法を決める。
職人任せが多いが私は自分で指示している。定尺は4mで大型トラックの荷台寸法が8mなので決められている。
長ものを出す場合は倒した木を見て6mとか8mに伐る。山買いは長尺を出すのが一番の目的になる。長尺は規格外なので高くなるが山買いの場合はあまり変わらない。

出した丸太をどの様に挽くかが最大の見せ場でもあり楽しみの一つになる。柾目の無節の材は並材の何倍もする。
丸太の挽き方で決まるので製材する職工の見立てが一番重要だ。製材機は丸太を乗せる台車と回転する帯鋸で台車に職工が乗るタイプと鋸の脇に立って台車を通過させるタイプがある。
台車が通過する時に割った丸太から無節が出たら大喜びする。最初の割り方でほぼ決まるのでこの瞬間が面白い。CIMG3445

製材した杉は桟木を挟んで外で乾燥させる。いきなり倉庫へしまうとカビが生えたり乾燥が遅れる。
日に当てると桟木の型がついたり反るので時々向きを変える。季節によるが早ければ3ヶ月位で桟を変えて倉庫へしまう。倉庫が満杯だったり夏伐りの場合は長く外に置く。
当社では倉庫へしまう時に仕分けをして用途別に分けている。ここまで出来てやっと刻みに使える材木になる。

丸太から製材すると角の他に脇の半丸の部分から板材などが採れる。好きな寸法に挽いて各種仕上げ材を作っていく。
皮に近い部分は節のない材が出る。所謂白太と呼ばれる水分の多い生きている部分だ。割れたり曲がりやすいので十分乾燥させる。
赤身と呼ばれる中心部は古い木の部分で丈夫で強いが節が多い。赤身で無節は滅多に出ないので価値がある。CIMG3448

赤松とか唐松は梁材として節のないものは階段材とか仕上げ材として使う。製材要領や乾燥は杉と同じで特に赤松はアオと呼ばれるカビが出て黒く変色する。
伐り時に左右されるので冬しか伐れない。集成材の梁が主流になって使われなくなっている。当社では現しの梁などによく使う。
唐松はヤニが出るので見えるところには使いにくい。フローリングや羽目板に加工したりするが加工業者が減って難しくなってきた。

当社の売りの一つに大黒柱がある。30センチ角などの太さの広葉樹が中心で杉や唐松で作ったこともある。
欅などの硬い木で直径7,80センチクラスの長さが5,6m以上のから採れる。荒挽きで40センチ角くらいに挽いて4,5年は倉庫の中で乾燥させる。
使う時に挽き直して30センチに落とす。さらに2,3ヶ月置いて狂わせてからさらに手動のカンナで作る。加工も大変なのでリフトとか設備があるところでないと出来ない。CIMG0999

もう一つの売りに曲がりがある。赤松や欅、栗が主で杉や唐松のような真っ直ぐな木では作れない。
曲がりを集めるのが難しく伐採では曲がったものは全てチップ用に2mに伐ってしまう。曲がった丸太は運ぶのも製材するのも面倒でしかも需要がないので滅多に出回らない。山買いで自分で出すよりない。
乾燥も十分にしないと割れやすく曲がる。曲がりは言わば応力が変形してかかっているので製材も難しい。

何年も在庫をしたり前払費用がかかるので経営的に見れば採算が取れない。しかし魅力ある家が作れるのも事実である。
古民家風とか本格的な和風住宅を建てる時に一番重要なのが大黒,曲がり,無節の材木だ。これらは業者から手に入れようとしても難しく高くつく。
その傾向は今後も続くが伐採職人も製材所も無くなった訳ではないので当社は今後もこう言った住宅は建てていきたい。CIMG2074


職人の世界—–建具屋

建具と聞いて段ボールに入った既製品以外を見るのは少なくなった。
建具屋と言う商売も激減の道を辿っている。辛うじて似たような職種の家具製作などで生き残っている。
住宅の建具が建材になったのはアルミサッシが最初で40年以上になる。今では木製サッシもかなり珍しくなってしかも高額だ。
内部建具は少し遅れて30年くらいにはなる。その頃から建具屋と言う商売も廃業が相次ぐ。

建具屋は基本的に作業場を持ち現場取付をする。現場にいる時間よりも作業場、大概自宅だが、が長い。
手伝ったりするので息子も見慣れて後継には不自由しない。問題は仕事量で建具だけでなく家具製作まで手を広げている。
本来は違う仕事なのだが木を扱うところや加工機械などが似ている。
建具は無垢材を在庫して天然乾燥をして作る。ベニアを使うフラッシュと呼ばれる建具が主流になって無垢は減っている。CIMG0163

一人もしくは二人くらいの規模が多く親子も多い。
無垢の建具を作れるのは親だけで息子の方はフラッシュしかやらない。無垢の建具は木を見ないと狂って後から面倒なので経験がいる。親子だと引退した親から聞けるので都合が良い。
製作は一人だが建て付け、搬入時には人数がいる。一人のところは仲間と応援しあって協力する。

当社は建具はもちろんキッチン、洗面なども作るのが多い。杉材が多くほかにも雑木などある材料を使うこともある。
杉を厚さ30ミリくらいに挽いて1年ほど外で乾かす。その後倉庫にしまって在庫している。
仕事が出れば建具屋に支給したり手持ちの材料を使ったりする。家具も裏板に至るまで全て無垢材になる。最近は杉板を3枚接ぎ合わせたJパネルを使うことがある。CIMG2831

杉材の建具は節のない柾目に限る。暖房の効いた住宅が増えて十分に乾燥しないと狂う。
製材所でも杉の丸太の良いのが出ると一番先に建具屋に売る。次が大工と言う程で最良品のを使っている。
当社でも良い丸太は建具用に採り次が柱、内法材になる。樹齢7,80年以上でないと難しい。丸太購入、製材乾燥と資金も掛かるのでフラッシュが増えてしまった。

建具屋の職人は細かい仕事なので器用で真面目なのが多い。手より口が先走るタイプには向かない。
デザインの打ち合わせでも細かいところを気にして思い切ったことをやりたがらない。そう言うところがデザイン優先の設計などに使われない原因だ。
もちろんだが安く出来る訳ではないので住宅会社にも敬遠される。既製品ではできないのだけを細々とやっている。CIMG3696

当社は左官と建具は付き合いが長くなる傾向がある。あちこち選べないのと真面目に付き合うので浮気が少ない。
逆に大工は昔は元請けだったのもあって口手八丁も多く駆け引きにも長けている。新らしい取引先の開拓も熱心で付き合いが増える。
新らしい職種の電気屋、クロス屋、水道屋などは最初から住宅会社と付き合うので営業感覚がある。そう言う意味でも左官建具は古臭い職種だと言える。

似たような職種に箪笥屋がある。ほぼ絶滅した手作り箪笥だが一部のブランド品だけが製作されている。
こちらも建具屋と似たような仕事をしている。塗り屋と呼ばれる家具塗装専門の業者もある。建具や家具を持ち込んで塗装してもらう。ウレタン塗装はシンナーを使うので体に悪いので外注するのもいる。
当地では無くなったが建具家具の金物専門の業者がいた。ネットや通信販売に置き換わった。DSC_3839

意外とこだわる方が多い塗装だがウレタン塗装が一番多い。シンナーを使うので乾燥が早いが職人は体に悪い。
水性ウレタンが増えたが乾燥に時間がかかってコストが上がる。当社ではニスを使うが仕上げが粗くて綺麗でない。
柿渋とか自然塗料にこだわる方もいる。コストを無視すれば漆が一番だ。耐久性もあるし日焼けや水に強いし何より深みのある味わいは別格だ。

当社では無垢の建具以外は使わない。コストもあるので出来るだけデザインは簡素にしている。
本襖や襖紙などに凝って絹しけや高級和紙もやったことがある。建具デザインだけで無く付属品にこだわればキリがない。
そしてネットなどで調べると骨董品などの古建具も手に入る。どうしても建具に凝ると和風で古臭い家ができる。ポリシーとして普通の家つくりでも無垢の建具で作る。


職人の世界—–左官屋

文字の変換で”さかん”と入力すると盛んと出てくる。”さかん”は左官のことだと思っているのは業界人だけらしい。
伝統的な家を建てるには必要な職人は大工、左官、建具と言われる。プレカット時代になって廃れてコテを握らない職人が増えても内外の仕上げは板張りか左官しかない。
30年ほど前はモルタル仕上げが外壁の主流だった。内部も大昔は漆喰で風呂などもタイル貼りだった。カマドとかコンクリート流しとか左官で作る設備も多かった。

職人は時代によって流行り廃りがある。左官と建具が最たるもので全て建材に変わってしまった。
その左官の最後に残った住宅仕事は玄関のタイル貼りだけになった。
当社は内外漆喰とか玄関土間を三和土で土で仕上げたりする。竹小舞を組んで土壁を塗り漆喰仕上げもほぼやることが無くなった。
時間と金額が住宅に使えるシロモノでなくなった。かろうじて外部にモルタルリシン掻き落としとか希望されることがある。s6

大工同様こちらも高齢化が進み休憩で話しているとそのまま老人クラブになってしまう。70代もまだ現役がいて60代とペアを組んだりする。
コテはともかく持ち運びができなくなる。重いモルタルの入ったバケツを二階まで何往復もする。漆喰など仕上げは厚さ0.2ミリとかの世界になる。
しばらくやらないとコテを持つ手が震えてできなくなると言う。頼んでいる左官屋は職人が4人いるが仕上げができるのは一人だ。下塗り、中塗りまでは良いとして上塗りは難しい。

珪藻土とか石灰クリームなども塗り要領は漆喰と同じだ。乾きの速さや塗りの滑らかさに多少違いはある。手間賃がほとんどなので種類が変わっても金額は違わない。土佐漆喰とかテカテカにする大津磨きはできる職人が少ない。
今でも田舎では土蔵の修理とかあって職人が3年がかりで足場を組みやることがある。新築住宅ではやらないがそう言う技術がないとできない。学校を出て修行をして一人前になっても激減した仕事では食っていけない。s3

土間のある家は最近増えている。土間と言っても殆どコンクリートにタイルかモルタル仕上げだ。
古民家風とかで玄関土間を土の土間にする方がいる。京都の聚楽土とか昔からの材料も販売されていて施工も簡単だ。湿らせて木槌で叩き締める。
叩きはこれから来ているが叩くほどに水が出て強く固まる。地元産にこだわればゴロダと呼ばれる土に石灰と苦汁と粉炭を混ぜて作る。昔の農家の土間などはこれで割れが入りやすく乾くと埃になる。

漆喰の仕上げ方も職人により多少の違いがある。
材料も違うが仕上げてから半乾き状態でコテでシゴく。シゴくことで割れ防止のスサと呼ばれる毛を寝かせるのと定着させて剥がれにくくする。クリーム状の一発仕上げの漆喰だとシゴきがない。
シゴいた方が良いのだがシゴいた跡がテカリとなって出てくる。施主によっては気にする方も多くクリーム状が増えた。漆喰仕上げは調湿とか効果があるが一番は吸臭だろう。s2

息子が新築してから孫が保育圏で木の匂いがすると言われる。過去に建てた方にも何人か言われた。
生活臭が漆喰に吸臭されて柱などに触った木の匂いがする。帰宅した御主人が木の匂いでホッとすると言われる。建材や生活臭がしないので余計木の匂いがするのだろう。
これが和紙とかの仕上げだと違った匂いになる。漆喰と木の仕上げは最高の組み合わせと思っている。

外部モルタルが建材に変わったのは断熱材の関係もある。
外断熱だと柱の外側に重いモルタルを張り付ける。経年変化でタレ下がったりする心配がある。
基準法では厚さは20ミリ以上と決められているので建材よりも重い。
真壁仕上げも充填断熱が壁厚が少なくて難しい。余計外断熱仕様になるから外壁も出来るだけ薄くしたい。となると薄く軽い18ミリのサイディングになってしまう。地震などで亀裂も細かく別れるサイディングの方がモルタルより入りにくい。s5

玄関タイルだけとなった左官工事も土壁や石貼りなどバラエティーに富んだ仕上げができる。マキストーブの遮熱壁やハーフユニットを使った浴室なども左官やタイルで作れる、バラエティーと言う意味では左官は色々な技術を持っている。
個性的な家つくりには欠かせない業種だろう。ただ後継職人がいないのは大工よりも大変かもしれない。


職人の世界—–大工

ブログとは別に日々の仕事の中で付き合った職人のあれこれを気ままに書いていきたい。
不定期になるので思いついたら書くことにする。

先ず一発目は一番付き合いが多く、当社の出来を左右しやすい大工だ。家を建てると現場に一番長くいるのが大工だ。刻みから始まって完成までとなると4ヶ月程になる。当社の売りである手刻みや真壁は大工の腕に左右される。次に材料と言ったところだ。1

当社は息子が棟梁をしている。普段いる大工の中で一番若い。秋田の宮大工のところで修業した。角館に7年程いて帰ってきた。
とりあえず当社の仕事をしていた大工のところに預けた。作業場を作った時から息子が墨付けをして棟梁になった。
立場が逆転して親方は息子に使われることになった。アドバイザー兼任と言うところだ。

大工は家大工と宮大工に分かれる。修業も別で道具から仕事のペースまで何もかも違う。
宮大工はできたもので判断され家大工は早くできることに重点を置く。だから宮大工は仕事が丁寧で遅い。材料に対するワガママも強く複雑な仕口とかやりたがる。
家大工は一現場いくらで請負うから早くないと赤字になる。5

後存知のように家はプレカット全盛で早さが絶対的な価値を持つ。建材も早さを追求しているからなおスピードアップする。
それに対応した大工が中心の家大工は技術より体力だ。宮大工は腕と知識がモノを言う。
主力が今でも60代が多い大工の中にはそう言ったスピードを好まないのもいる。大工は腕だと信じているのも僅かだがいる。

大工は基本的に日当制で交通費も道具代も自分持ちである。
最近は会社組織に雇われてサラリーマンが増えた。保険などをかけてもらっているので自由にあちこち移れない。
もちろん仕事も選べないので一匹狼を好むのもいる。腕に自信がある者程そう言う傾向がある。6

大工は数えきれなほど付き合ってきた。
選ぶ基準は腕を一番重視する。持っている道具を見るとある程度わかる。カンナとかノミとかプレカットでは無用の長物だ。
当社の現場では昼休みに一斉に大工がノミを研ぐ。若い大工には研ぐ修業をしたことがないのも増えた。

プレカットだと組み立てるだけなので自分で作ることがない。
手刻みは仕口はもちろん材の使い方まで大工が考える。たとえ設計者であっても細かく指示することはない。
真壁の仕上げだと材の良し悪しや太さは重要だ。私は選んだ材木を見て仕口まで口を挟んでいる。知識がないのに口を挟めば喧嘩になるか無視される。
逆にこちらの指示にも関わらずレベルを超えた仕事をすることもある。3

一般に職人は設計者とか施主の知識レベルを超えた技術を持っている。プレカットでは役に立たずとも手刻みでは有用だ。
完成後ではわからなくても手間をかけて狂ったりしないような仕事をする。かけ過ぎにならないように設計者としては注意しながら現場を見る必要がある。
近頃ではかけ過ぎどころかちゃんとやれないのが増えて苦労する。

私と同年代が多い大工だが引退間近が大勢いる。あと2,3年で大工不足は確実に来る。
在来工法の手間のかかる現場はやれなくなることも予想される。
大手の住宅会社は自前の大工養成機関を持っている。地場の住宅会社などは競争に勝てなくなる。
元請けをできなくなった工務店は下請け専門になる。当社も大工を増やすことは難しいと思っている。2

大手は上棟式とか省略するが職人たちは迷信深いのが多い。
不幸ごとがあれば縁起を担いで一月ほど休むとか現場管理に支障を来す。逆柱とか現場にはやってはいけない決まりがある。
施主が気にしなくても大工は嫌がる。当社では廃れる決まり事も分かる範囲内でやるようにしている。
ベテラン大工が知っていることでも息子が知らないこともある。いずれやらなくなることは仕方がないことではある。

そう遠くない将来に手刻みとか真壁は消滅することになる。神社仏閣でもプレカットが主流になる時代が来る。
そういう時代でも大工は必要だし技術もある程度残る。TVなどで伝統の技とかノスタルジーを込めて話題になる。しかし成り手が減って教える方もいなくなったら技術は廃れる。
一般庶民には手の出ない数奇屋とか超高級住宅のみになってしまう。当社は普通の住宅を近場の木で建てたいと思っている。限界に挑戦するようにできるまで続けたい。